冴えない男が一人で歩いていた…

男は最近、ついていなかった

仕事ではトラブル続き、付き合ってる彼女には浮気され、しかも趣味で書いている携帯小説もイマイチ、ぱっとしなかった

そんな時だった。あの店を見つけたのは…

『おっ?占いの館かぁ…ん?何この張り紙?取り敢えず、入るか』

最近、ついてない自分に嫌気がさしていた男は中に入った

男が見た張り紙には

【コメント屋も始めました!】

と書いてあった

男がドアを押し開け中へ入ると…

ガランとした部屋にテーブルと椅子があり、そこに占い師らしき女が座っていた

「あの…占って貰えますか?」

「占えへんって言うたら帰るんか兄ちゃん。あんたの占いに対する気持ちはそんなもんかっ!!」

いきなり、すごい剣幕で女が言う

「い、いえっあのその…ぜ、是非占ってください!」

慌てて男が言う

「残念ながら今日は占えません!」

「へっ?今の流れだと…」

「コメントにして。見たやろ?表の張り紙。誰もまだコメント貰いに来てくれへんねん」

「でしょうね…」

「なんてっ!?」

「い、いえっ。じゃあせっかくだしお願いします、僕について何かコメントお願いします」

仕方なく男が言った

「じゃあって何やねん、じゃあって…まあええわ。はい、コース選んでね」

女が出した紙に目をやる



Aコース 辛い
Bコース 辛い

と書いてあった




「何ですかこれ。どちらも同じじゃないですか?」

「兄ちゃん…よう見てよ。ここ、フリガナふってるやん。兄ちゃんの目は竪穴か?」

「・・・・・」

「そこ、式住居じゃねーよとかやろ、普通」

「式住居って…ああ、竪穴式住居ですか?なるほど、ありましたね。」

「兄ちゃん、感心してどうすんねん。ただのボケやがな」

女がため息混じりに言う

「すいません…」

「大体、さっき黙って入ってきたやろ?あそこ普通はお邪魔しまーすとかって入ってこんかいな。でないと、こっちも邪魔するんやったら帰ってんかーって言われへんやろ」

男は今すぐ帰りたくなった

「っでほらここ、見て」

さっきの紙を凝視すると…


カラ
ツラ


と確かにフリガナがついていた

『カライとツライってどんなコメントだよ…』

男は心の中で呟いた

が、実際は声が漏れていたようで

「どんなって、そら、こう練って練ってトローっと流し込んで…」

「それはセメント…」

「おっ、お兄ちゃんやる気でてきたやん。ただもうちょっと声張ってよ、せっかくのボケが死ぬわ」

「・・・・・」

「っで、どっちにする?早よ決めて」

きっと、このままでは帰れないと思ったのと、女に急かされたのとで思わず

「じゃあAコースのカライで…」

嫌々男は言った

「だから何なん、さっきから。じゃあじゃあって、ご飯カチコチなりますーってか?」

「もしかして、炊飯ジャーの事?今時、いませんよジャーなんていう人」
「コメントだしまーす」

女は都合が悪くなると話題を変えた

「では、カラいコメントを」

静かに息を吸うと、女は話始めた

「やぁだぁ~、なにそのシャツ、全然イケてないわよ。色も形もダメ。そんなんで銀座なんて歩いちゃ迷惑。それにそのスカーフ今すぐ外しなさい。全く、みっともないったらありゃしない!」









「あの…何ですか、そのオネェ言葉。それにシャツって会社帰りでただの白のワイシャツだし、後スカーフなんてしてませんよ俺…」

「あのな、兄ちゃん。カラいコメント言うたらピー○さんしかおらんやろ?それにスカーフのくだりは辛口コメントの典型やん。なんも解ってへんなぁ」

男は少しイラッとし始めた

「そんなイライラせんと…特別にツラいコメントもあげるから機嫌なおして」

「要りませっ」
「ツラいコメントだしまーす」

女が被せるように言ってきた


「あぁ~くぅじょ~になるならつきよはおよしよすなおになりすぎ~るぅ~…ツラいっしょ?」

「ど、どこがですか?」

「知らん?この歌名曲やで。男友達と遊んでるって女友達に嘘の電話するねん。なっ?ツラいやろ?」

「意味、わかんねーし。コメントでも何でもないですよね?もう帰ります」

男はいよいよ頭にきて、帰ろうとした







「兄ちゃん、待ち。このまま帰ってええんか?悩んでるんやろ?仕事は上手くいけへん、彼女ともビミョー、後、そうやなぁ兄ちゃんみたいなタイプは趣味で小説とか書くやろ?」

「何でわかるんですか?」

男は女の言葉に思わず食いついた

「何でもわかる。わかりやすいわ、お兄ちゃん。小説にしても、自信作やって思っても全然人に読んでもらわれへんし、感想コメントも大して貰ったことなくて落ち込んでるやろ?」

女が言うことは図星だった


男はもう一度座り直すと女に聞いた

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。仕事だって、俺だけのせいじゃないんだ。なのに、俺ばっかりが悪いみたいに言われるし、サキだって…彼女にしたって俺がどれだけ尽くしてきたか全然解ってない。それに…俺は俺が書きたい物を書きたいんだよ本当は。だけどさ、それじゃあダメなんだ。なあ?こんな俺にあんたどうしろって言うんだよ!!」







「あんたはどうしたいんや?こんな俺ってそれもあんたやろ?なら、自分はどうしたいのかを先ず考えないとアカンやん。文句ばっかりいう前にな。」






俺が…どうしたいかって?




しばらくの沈黙の後、男は話しだした

「俺は仕事が出来る男になりたい。顧客に喜んで貰えるような仕事をしたい」

「彼女は…サキは…彼女が幸せであれば良いと思う。ただ、その役は俺でありたいと思う」

「それから…小説は、やっぱり自分の思うままを書きたい。そして一人でも読んでくれる人がいるならその人が読んで幸せな気持ちになれる様な話を書きたい。俺はそう願う」





思うままを吐き出した男は清々しい気持ちで一杯だった

『こういうの、久しぶりだな。自分の気持ちを出すなんて。いつも人のせいばかりにして、結局、俺は俺自身を自分で苦しめてたんだな…』