瞬きばかり繰り返す私に向かって、もう一度、ニッコリしてから「携帯、だして?」と言ってくれた。


ようやく…我に返り足下のバッグから携帯を取り出して、二人のを付け合わせ、赤外線…。


「じゃあ、気をつけて帰ってね」


このやり取りをバスケ部、部員全員と見学者が見ていたのを、お互いしか目に入らない二人は知らない…。


体育館に戻る桜井君の背中に、右手をほんの 10㎝…上げただけのバイバイをする。


それが今の自分に出来る精一杯だった。


そして、手元の携帯のアドレス帳を開いてみる。


他の女子高生と比べて極端に登録件数の少ない画面。


“その他”に振り分けられているそれを、震える指先で新しいフォルダに入れる。


さぁ…フォルダの名称をどうする?


誰も見ていないかな、なんて周りをキョロキョロしてから、フォルダに“彼氏”と入れた。


たったそれだけなのに、心臓が有り得ないくらいのバクバクで、今からこんなでは、これから何かあるたびに死にそうなくらい苦しいのでは…と少し憂鬱になった。


…*…*…*…*…*…*…


それからどうやって自宅に戻ったのか…


気が付くと自室の床に座り込んでいた。


夜は初メールがきて、そこにはハッキリ『彼氏として…』とあり、あれは夢じゃないんだとようやく自分で認められた。