高城は入った時からずっと気になっていた。あの段ボールの山の中に誰かがいたのだ。しかも隠れるようにして座っていた。しかし、諏訪とやらは心当たりがないらしく、
「え?何?何の事?」
と他の二人に聞いている。
「いやぁビックリした。まさかこの短時間で神代を見つける奴がいるとは・・・」
「えっ・・・何や神代って。誰?誰なん?」
「ノリ・・・。なんで茜ちゃんに言ってないの?」
対して遠藤は全く意に介さない。というかこの遠藤という男は諏訪にだけ言ってなかったのか。性格悪いな、コイツ。
「神代〜。ちょい来て〜。」
そして、段ボールの山の中から一人の男が出てきた。諏訪は口をパクパクしている。
「彼が神代。いろいろあって入ってもらった。」
神代とやらは十人中九人は"怖い"という印象を持つであろう男だった。目付きが悪く不機嫌そうな顔をし、おまけにガタイもいい。
「神代は寝起きは頭があんまり回んないらしくてね〜。今はこんな感じだけど結構面白い奴だよ」
「ノリより頼りになるしね」
「おいおい神代と比べるなよ(汗)」
こんなやり取りの間も一言も喋らない。恐らく寝起きで頭が回ってないのだろうが、どう見たって怒ってるように見える。
初対面だったらしい諏訪は神代に完全にビビっていた。彼女はどうやら十人中九人のほうらしい。
「え、えと、あの、諏訪言います。よ、よろしくお願いいたします」
ちょっと涙目になりながら挨拶をした諏訪に対して、神代は会釈した。それだけで諏訪はビクッとして今にも逃げ出しそうになっている。
因みに高城は特に恐怖を感じていない。間違いなく少数派だろう。
「にしても凄いねぇ高城。神代に気付いたの君が初めてだよ。色んな人が来たけど誰も気づかなかったし。諏訪なんて二週間も気づかなかったのに」
「え−−−っ!!!!!そんな前からおったの!?影薄過ぎやろ!!ていうかウチより前からおったんか!!」
「神代君を見て怖がっちゃう人がいるから隠れてもらってたの。何だっけ、気配を殺すのは得意だって言ってて」
何故高校生で気配の消し方を心得ている。何者だ、神代。
「神代を見て依頼人が逃げちゃったら神代も凹むし依頼人は問題解決できないしで百害あって一利なしじゃん。神代も寝れるから別にいいって言ってたから」
本人の了承があるからって段ボールの山の中に居させること無いと思う。
と、いろいろ考えていると神代はまた段ボールの山の中に消えていった。もしかすると自分から進んであそこにいるのかもしれない。
「さて、高城は依頼人でもないんだよね?んじゃ取り敢えず仮入部でもしてみる?」
「は?」
「この時間に暇をもて余していたってことはどの部活にも入ってないでしょ」
「まだ4時半やしねぇ」
「まぁそうですけど・・・」
ぶっちゃけこんな雑用係全校版に籍を置きたいとはあまり思わない。しかも多分先輩だけだし。
「まぁ入んなくてもいいから今日と明日来てみなよ。困るの高城だけだし」
・・・やっぱりコイツ性格悪いな。
「あと俺らみんな一年だからね。」
「・・・は?」
「俺とカナは五組で諏訪は二組。みんな新入生だよ。気づかなかっただろ(笑)」
それを最初に言えコノヤロウ。なんの為に使いたくもない敬語使ってたと思ってんだ。



その日は特にやることもないようだった。明らかに暇をもて余している万部一同は思い思いのことをして過ごしている。
具体的にはまた遠藤と諏訪が喧嘩を始め、桧山が止めに入る、ということをひたすら繰り返している。
因みに波岡高校には正式な部活として"自習部"という部がある。唯一"午後6時までは強制労働"に当てはまらないその部活は、本来どうしても自主学習をしたいという真面目な奴らの為に作られたものなのだが、実質は帰宅部で、中には適当な時間まで何となく残っている人が多いと聞く。

(もしやコイツらホントはただの帰宅部崩れじゃあるまいな?)
高城はついそう思ってしまった。