ん…今…何時だ…ろ?

携帯…携帯…


枕元で充電されてる携帯で時間を確認して、一気に目が覚める。




ん?



んんん〜っ?!




「あっ!アツっ!!起きて!ヤバイっっ!7時半過ぎてるっっ!!」



私はガバッと起き上がって、隣りでぐっすり眠っているアツをバシバシ叩いた。




「…ん…わかっ…て…
えぇぇっ!?マジかよっっ!!」



アツも一気に目が覚めたのか、布団から出るなり、下着やらワイシャツやらをありえない速さで着ていく。



私もそんなアツを横目に見ながら、クローゼットから通勤用の服に着替えた。




「もぉっ!アツのせいなんだからね?!」


「俺だけのせいじゃねぇ〜し!
和歌だって、‘アツもっとぉ〜♪’とか言ってたじゃん」



「いっ…へ、変態アツ!ってコラっ!歩きながら歯磨きするのやめてってば!」





私とアツは高校三年から付き合い出して…もう5年。

今はお互い社会人で、お互い一人暮らし。

一人暮らしって言っても、土日含めて週4日はどちらかの家に泊まっているから、半同棲。








「...んじゃぁ、俺先に出るから。あ、今日会社の同期たちと飲み会だから自分ん家にもどるわ...っと、忘れ物...」





アツは急いでるにもかかわらず、フワッと私を抱きしめて、チュッと軽くキス。




「んじゃぁ、行ってきます」




「行ってらっしゃい♪飲み過ぎないようにね!!」









私たちは5年も付き合ってるのに付き合いだした頃と変わらずラブラブで。


きっとこのまま二人で過ごしていく...そう思っている。




付き合いだしたきっかけはアツからの告白。


高校3年になったばかりの4月に突然アツに呼び出されて、




「浅原さん!!1年の頃からずっと好きでした!!よかったら...っていうか、なるべく...
っていうか、絶対俺と付き合ってください!!」...とおかしな告白を受けた。




同じクラスになったことがなく、教科コースも違ったから私はアツの存在すら知らず、

「1年の頃からずっと好きでした」と聞いてとても驚いた。


高校3年...受験で忙しくなるだろう時に恋愛なんて...なんて思ったりもしたけど、

アツの真剣な顔をみて、私は一瞬でオチてしまった。







「...よろしく...お願いします」





会話もした事がない二人がいきなり付き合うのはどうなんだろう...ってことで、

付き合いだした頃はお互いの事をまず色々知る事から始まった。




まずアツの名前、住んでる所、誕生日、血液型、好きな音楽、好きな歌手、好きな食べ物...



アツの名前すら知らないなんて申し訳なかったけど、


「いいよいいよ。これから俺の事いっぱい知ってくれたらいいし♪」とアツは言った。





中村アツキ。

アツはサッカー部で、日焼けが似合う男の子。

チャラチャラはしてないけど、オシャレで“THE モテ男”代表と言ってもいいくらい見た目がいい。


理系クラスだったアツは、ほとんど女の子との接点がないらしく、文系クラスの女の子や後輩に何気に人気があった。...っていう事も付き合いだしてから知った。


凄くモテるだろうアツなんだけど、高校1年から私一筋だったから今までの告白を全て断っていた。

私が、アツの初めての彼女。
私も、アツが初めての彼氏。





そんなアツを私も日に日に好きになっていって、付き合いだして2ヶ月になる頃には“超バカップル”と学校で言われるくらいになっていた。








...---...



アツとの馴れ初めを思い出すと自然とにやけてくる。


ホント、アツが大好き。


アツ以外考えられない...









「...ニヤニヤして気持ち悪いところごめんね?和歌、PC電源ついてないけど...」






ハッと声の主に目をやると、私のPCの電源を入れてくれてる同期の純ちゃん。






「仕事中は仕事に集中しなさいよね?
また彼氏の事考えてたとか??どんだけ好きなんだよぉ??」



「ははは...いや...ははは...」



「もう付き合って5年だっけ?長いよねぇ~。まだしないの?...結婚」



「うーーーーーん...どうだろう?まだそういう話はちゃんとはしてないんだけど...出来たらいいなぁっとは思ってるよ。でも、まだ23じゃん?まわりも結婚してない子ばっかりだし...」



「でも付き合いが長くなればなるほど、ダラダラしてると結婚できなくなるよ?
って、あ、そうだ!今夜、和歌ヒマ?久々に飲みに行かない??昨日雑誌でお洒落なお店見つけたの♪」



「おぉ!!いいねぇ!!今日彼氏も飲み会でいないし、久々に女子会しちゃおっか♪」



「よし!決まり♪んじゃぁ、定時に仕事終われるように集中して働きなさいよ?!」






...って言ってた本人が、大事な書類を作り忘れて残業決定。




「...和歌ぁ...ゴメンっ!!私、今日中にコレやらなきゃいけないから飲みはまた今度って事で...ホンットごめんっ!!!」



「いいよ、また今度行こうね。ってか、今日中に出来るの?手伝おうか?」




「あっ!!いいの!大丈夫大丈夫♪」




そう言う純ちゃんの視線の先には、純ちゃんの片想いの相手の矢野君。

あぁ、そういうことね。




「わかった。じゃぁ、仕事に集中して頑張ってよぉ?」



「う...うるさいっ!!」




ニヤニヤ笑う私に、“しっ!!しっ!!あっち、いけぇ!”と顔を真っ赤にして怒る純ちゃんが可愛い。











さぁて。


今日はアツもいないし...ご飯作る気にもならないし。

コンビニで適当に買って、撮り溜めてたドラマでもみるかな。

時刻は17時40分。

できれば55分の電車に乗りたい。

私は「じゃぁ、お先に!お疲れさまでした!」と急いで会社を後にした。






自宅の最寄駅に着き、帰宅ラッシュの人の流れに乗りながら改札を出る。


10月末にもなると、19時にはもう真っ暗で、少し肌寒い。


上着持ってこればよかったなぁなんて思って、ふと目に付いたコンビニの“おでん”の文字に

ひきつけられる様にコンビニ入った。



今日の夕飯はおでんにしよう。


カップにいくつかのおでんを入れてレジに並び、バッグから財布を取り出そうと、ごそごそバッグをあさる。






...え?...



...うそ...無い...




ガバっとバッグを開いてもう一度探すけど財布は見当たらず。


店員さんも財布が無いのに気付いたのか、ちょっと困った顔をしてあたしを見つめる。


幸い、私の後ろには誰もならんでいなかったから、もう一度ゆっくりじっくりバッグの中を探した。




落とした...?



いや。それは無い...



さっき仕事終わって、コーヒー買いに行って...



純ちゃんと話して...



あ。




純ちゃんのデスクの上だ...



純ちゃんに確認してもらおうと携帯を取り出すと、純ちゃんから着信とメール。





“和歌、財布忘れてるよぉ”