「俺の前では泣いていい。

 そんな風に泣かれるほうが、俺はつらい。」

「はい。」

そう返事をしながらも、やはり体制を変えずに泣き続ける。

どんなふうに生きてきたのだろう。

彼女の養父はどんなふうに育てたのか、

養母の話が出ないのはなぜだろう、

多くを語らない彼女が、生きてきた時間を、

わからないことがもどかしい。


今まで、人の人生なんて、

関わるのは面倒だと思ってた。



音々に会って初めて、

人の過去を知りたいと、

そして、それに寄り添いたいと思った。

「音々」

俺は丸まって泣く音々を包むように抱きしめた。

「大丈夫だ。」

俺が受け止める。

この女の全てを受け止めてやる。

そんな覚悟が胸に湧き上がった。

これが人を好きになるってことか。