「ん……」



不意に、深音の顔が歪んで。


起きる。


そう思って、胸の鼓動が速くなった。



「んにゃ……」



目を擦りながら、上体を起こす。


その仕草は、俺が知っているよりも、ゆっくりになっていた。



「……あれ……?

………………っ!!」



目を開けた深音は、言葉を発さなかった。


代わりに、肩が、手が、震えだす。



「……なんで……?」



そう聞かれた時には、体が勝手に動いていた。



母親がいるのも、構わずに。


その頼りない体を、思いきり抱きしめた。



首筋から、甘い香りがする。


俺が与えた、新しい花の香り。


吸い込めば、胸の中が愛しさで満たされた。


胸の外側で、深音の泣き声が聞こえてくる。


言葉にならない、泣き声。


しばらく抱きしめたままでいると。


深音の母親は、いつの間にかいなくなっていた。