病院には、独特の臭いが漂っていた。


薬品や、消毒の臭い。


それに、病人自体の臭いが含まれているような気がした。


教えてもらった病室を訪ねると、ちょうど母親が部屋から出てくるところだった。



「堺沢さん……!」



母親は俺を見つけ、駆け寄った。



「すみません……仕事中だもので、こんな格好で。

あ、しかも、手ぶらだ……」


「そんなの、いいんです。

どうもありがとう……」



感謝なんかしないでほしい。


深音が前のように、俺を待っているはずはないのだから。



「深音は……」


「どうしよう……ごめんなさい、今眠ってるの……」


「あぁ、じゃあ……

顔だけ、見ていっても……」


「はい、はい。

どうぞ、お入りください。

すみません、すぐに戻りますので……」



そう言って母親は、小走りでどこかへ行ってしまった。