ふと、目の前に白い手が差し出された。男はその手から腕を辿って視線を上に上げていく。


「椿さん、何故貴方は屋上にしか居れないのです?何とかと煙は高いところを好むと言いますよ」


そこにあった逆さまの顔は、紛れもない、待ち人の相棒のものだった。

──白い髪。成人してまだ二、三年といったところの張りのある表情。二つの目は淡く灰色に濁っている。華奢な見かけによらず低い柔らかな声が、煙草臭い男──椿の周りを漂う。


「四十過ぎた体で、此処までくるのは辛いでしょうに。……貴方も僕さんに似て、物好きなのですか」

「遅いじゃあないのー、まったく自由人なんだからあ」


椿が黄色い歯を覗かせて微笑んだ。白髪の青年もクスクスと笑い、彼の隣に腰を下ろす。


「半分じいさんな俺ちゃんより遅いってどうなの」

「僕さんだから良いんです。自由人、ですからね」


青年が皮肉を言ってみせる。椿は思わず苦笑をこぼす。


「怒っちゃあ嫌よ、ミヤビ。アンタはヘラヘラしてんのが一番なんだからさ」

「怒ってないじゃないですか、ほら、ヘラヘラしてますよ?相変わらず、貴方の要望通り──」

「わかったから……!済まなかったから……!」