「あっ…。
 あの…。」


 抱き止められた体温の温もりを肌で感じながら…その覆面の人物を見上げた。


 “…殿…。”


 私の心がその人物を呼ぶ声が胸に疼く‥。
 日本史の講義に見たあの夢が頭の中に映像化されて再生されていく。


 覆面の布から覗かせる瞳に見つめられたその目と重なる。
 
 …遠い昔にもこうして抱き止められ愛しい殿の顔を見上げた事がある光景‥。


 「ここに…いると安心だ。」


 ゆっくり私の体を下ろして私は…乗用車の天井部分に座らせ目を細めたその様子に心の中の何かが疼いた。


 「前にも…同じ事…。」


 言わなきゃ聞かなきゃ‥とはやる気持ちに押され声を絞り出し尋ねた。



 「…わしもそなたに聞きたい事が…。」


 私の言葉に答えるかのようにその人物も言葉を返した時…再びけたたましい音を鳴らし大型のバイク音に阻まれ我に返った。


 「とにかく…。
 ここで…待っててくれ。」


 その人物は…チッと舌打ちしながら…素早く立ち上がり車体の上からライダーを睨みつけ駐車している車体の上を駆け抜けていくのを唖然と見送った。


 「生駒さん…!」

 聞き覚えのある声に呼び止められ現実へと戻されて辺りを見回した。