それはまるで一瞬の出来事に思え…時間の流れがスローで再生されていくように全ての景色が遅く感じた。


 バイクの轟音が背後からじわりじわりと、攻め立て接近してきた矢先の事だった。

 急にフワリ…と宙に身体が舞い上がったような感覚を覚え、そのまま空へと引きずられるような目眩に捕らわれ恐怖のあまり瞳を閉じた。


 まもなく心地よい風に身を任せ私は懐かしい温もりに受け止められ…鋭い視線に射抜かれながら逞しい腕の中に抱き止められた感触を感じた。


 「…大丈夫か…!」


 耳元で囁かれた声と…温かい腕に抱き止められた感触に戸惑いながらゆっくりその状況を確認する。

 ゆっくりと瞼を開けると、ぼやけた視界の先に飛び込んできた不自然に布で覆われた覆面から覗かせる瞳に見下ろされていたのに気づき…慌てて手足をバタつかせたものの…しっかりと私の体をお姫様抱っこの状態で抱き止め駐車された車体の上に立つその人物と視線が重なった。


 「あ…あの…。」


 男の人にお姫様抱っこなんて…生まれてこのかた経験がなかったのもあり突然の状況に私は赤面したまま戸惑った。