読み上げられた文にしたためられた文面から…パーキングでの出来事が鮮明に蘇った。


 「し…信じられない…。
 後を追うって…。」


 読み上げた権田教授も驚き深く吐息をつく。


 「殿は…きっとあなたの身辺にいる筈です。
 少しの心当たりでも構いませぬ。

 あれば是非お力になっていただけませぬか?」


 しっかりと重ね合わせた手を畳につき…澄んだ黒い瞳で私に投げかけてきた。


 「…手がかりかあ…。」


 懇願する綺麗な黒い瞳に真っ直ぐ見つめられ頬を赤らめたまま複雑な気持ちで俯いた。


 濃姫…。
 別名…帰蝶。
 美濃の豪将…。
 斎藤道三の娘であり…織田信長公の正室。
 類い希なる美人であり…生真面目でしっかり者。


 私が見た夢の中で殿は…この目の前にいる濃姫との祝言をあげる為…吉乃に三献の儀(三三九度の事)を教えて欲しいと吉乃にせまり途中で加わった兄、八右衛門を巻き込んで演習と偽り秘密の祝言をあげた。

 夢の中の吉乃は…殿の気遣いに喜び幸せそうに見えた…。

 でも…こうして濃姫と向き合い言葉を交わし…美濃から織田家に嫁いできた彼女も、吉乃と同じように殿を大切に思っている事を改めて知り…古傷に胸を痛めた。