濃姫様は…その木箱に両手をそえしなやかにあけると木箱のフタを静かに畳の上に置いた。


 「…今朝方、殿から文が届きました。
 その文には…あなたの事が書かれておられまして…もしや殿の居場所を知っているのではと思い…。
 戸塚殿に無理を承知で、あなた様に面会を申し込みました事をお許し下さりませ…。」


 「えっ…。
 私の事がですか?」


 濃姫の言葉に私は昨日の謎の男性が浮かんだ。


 「ええ…。
 こちらにございまする。」


 濃姫から文を預かり文を開くと、表も裏も達筆すぎてわからない文字が連なり…表は筆で裏はサインペンで書かれている文字を見て動きが止まった。


 「こ…古典はどうも苦手で…。
隣におられる方に…文を読んで頂くため文をお見せしてもよいですか?」


 「ご無礼をお許し下さりませ。
 よろしくお頼み申しまする。」


 濃姫は私の言葉に一礼すると…今度は隣に座る権田教授に文の訳をお願いした。

 「権田教授…。
 これを…。」


 「うん…。
 わかった。」


 権田教授は濃姫様に一礼して私から文を預かると現代訳にて読み始めた。