「あっー!
 殿の事言ったからそんなに晴れた笑顔なんか嬉しそうにみせつけてさ…!

 俺なんか毎日…それらしい事はいってたけど…それすらも覚えてくれていない昔の俺が可哀想だ…。」


 皮肉気に悪戯な笑みを浮かべたその様子に悪意がないことを感じて…私は諷馬の肩を叩いた。



 「諷馬は…諷馬!
 昔の諷馬は…昔の諷馬だよ…。

 私も…吉乃は吉乃!
 私は…私!
 今は…生駒真帆として生まれてきたわけだしね。

 昔の記憶に翻弄されても仕方ないしね!

 ただ…昔の自分の想いを私達が受け止めていかなきゃね。」


 「それって…俺にも勝機あるってこと~?」


 曇りなく言い切った自分の気持ちに…諷馬は安心した表情でバカな事を言った頭を小突いた。


 「何が勝機よ!
 今の発言は…ただの変態ですっ!
 全く…!」


 「やっぱ…他人で生まれれば良かった!」


 小突かれた頭をさすりながら情けない声をあげ二人で笑った。


 この時私達は…まさかこの前世の記憶に…今後の人生を大きく翻弄されていく始まりだとは…夢にも思わず本能寺まで続く道のりをひたすら進んだ。