そんな殿の姿にもう1人あどけない微笑を浮かべた男にこの時初めて気付いた。
 しかも愛しき吉乃の化身の娘と仲むつまじげに話していたその男の姿に目を疑った。


 “家康…。”



 捕虜として幼き頃…那古屋城で暮らし兄弟のように育った間柄でありまた兄と弟と呼び合う仲でしたので…いくら他人の空似と申しましても驚かずにはいられない様子でありました。


 まじまじと家康殿に似た男と吉乃様に似た娘を殿は交互にみてなぜに家康殿に似た男と吉乃様に似た娘が、仲睦まじくしているのに不快を感じ、心に些か納得いかず嫉妬の病抱え疑いの目で家康殿を見た時でありました。


 「おーい!」


 外から繋がる入り口の方より…家康殿に似た男と吉乃様似の娘を呼ぶ声に二人は気づき吉乃様は慌てて去り際殿に別れの言葉を残し立ち去ろうとした様子に声を上げて引き止めました。


 吉乃様似の娘は…一度足を止められもどられましたが…殿から預かった飲み物を渡して笑顔で別れをつげるように見えた殿は恥を捨て娘の名を尋ねた。