突然の吉乃の登場に忘れていた慕情が一気に胸を突き破った。


 今すぐにでも…この娘を腕の中に抱きたい衝動にかられるが…その気持ちを目の前にいる彼女にどう伝えてよいか分からなかった。


 娘は尚も自販機なる箱を指差し丁寧に説明して微笑む。


 この娘に…。
会いたかったと伝えねば…。


 向き合い言葉を口にしようとした時、「硬貨」なる言葉を先に言われて聞き返した。



 「硬貨…?」



 殿の言葉に一瞬不信感を抱いたように眉をピクリと動かしたがすぐに娘は気を取り直して紙幣でもよいと伝えた。



 最初はピンと来なかったが、やがてこの旅路で両替した小銭の袋を娘の手に乗せて頼んだ。


 娘は殿のその様子に面食らい…眉間に皺をよせふてくされ自販機なる箱に向き合ったその背中を見つめた。


 何がよいのか尋ねられて…なんでもよい事を伝え娘をみたが直も聞いてくるので強い口調で再度何でもよいから選ぶように勧めると、娘はますます不信感を募らせた。


 やがて殿に言われた通り自販機なる箱のボタンを押した後突然箱の中から軽快な音楽が聞こえてきたのに殿は驚き自販機の箱にしがみつくように撫で回し確認した。