風の標になぞりふっとみた方向に愛しい吉乃の亡霊が安らぎの笑みを浮かべながら殿に一礼して…踵を返されました。


 慌ててその後を追ってきた場所に…女が1人立っていた。


 ゆっくり近づいてその女の顔を確かめた。


 女はチラリとこちらの視線に気付き…「お先にどうぞ!」と妙な箱の前へと勧めた。



 女の目が殿をじっと見つめていた。



 帽子を目深に被りチラチラと目配せした。


 この‥娘だ‥。
 間違いない‥。
 吉乃だ‥!!



 直感で殿は娘が吉乃であることを悟った。



 何か話しかけねばと思っていた矢先に娘は知り合いの男に声をかけられ会話をしながら笑った。



 やはり…。
 吉乃だ!



 殿の鼓動が高鳴りその娘の声と姿に五感を奪われた。



 「ちょっと…あんた!
 まだ…決まんないの?」


 突然背後から身を乗り出してきた老婆が怒り急かされた。

 その老婆の態度にカチンときて老婆を睨んだ時‥その様子に気付き老婆と話を交わした後自分の腕に手を回して笑った。