「賢一くん、僕は真輝や一二三とは違って純粋な人間でしかないんだけどね、いくらなんでも君は鈍感すぎる――いや、ちょっと想像力が足りないみたいだね。与太者……要するにヘタレって言うんだよ、それ」

「そ、想像力って……こう言ったらなんですけど、僕は今でさえ、自分が置かれてる状況が分からないんです。昨日だって、気が付いたら一二三さんが死んでた。そして今日になったら彼女は生きてた。なんにも聞いてない。なんにも聞いてないんですよ僕はっ」

「うん、わかったわかったよ。君の救いがたい情けなさは一二三じゃなくても少しイラッとくることがよぉくわかったから、落ち着いて座って」

「っ」

笑顔のまま手を掴まれて、ソファーに引き落とされる。

僕はこの時ようやく、純さんの浮かべている笑顔が、ただのペルソナでしかないことを知った。

真輝さんが、純さんそっくりに首を横へ振る。

黒い流水のような長髪が、首筋で静かに揺れた。