どこまで一二三さんについて知っているかと訊かれても、正直な話、ほとんど知らないというのが真実だ。

むしろ、一二三さんのことを知ろうと思って放課後に待ち合わせをしたら、余計わけがわからなくなってしまったという現状。

いったいどのように答えればいいのか。

「あの、それは、どういう方面で、あの、答えればいいんでしょうか?」

結局僕は、受け身へ回ることしかできなかった。

一二三さんのお母さんが、じぃと、僕を上から下まで目だけで眺め尽くす。

膝に置かれた手も、流麗な視線を放射する眼差しも、佇まいも、なにもかもが一個の存在として洗練されている。

僕は知れず、一二三さんのお母さんに見られていることに、照れを覚えた。

と、キッチンからおじさんが、取っ手のついたスチールトレーにコーヒーカップを載せてやって来た。


「あーあー、なんだい真輝、この重たい空気は。ダメだよ、人を威圧したら」

と、レースがふちを飾るクロスの上にコーヒーをおきながら、おじさんは苦笑する。