彼は、どうしようもなく滲み出てくる悲壮と、常日頃から心がけているために染み付いたんだろう笑顔をない交ぜにした、年下の僕でさえ同情したくなるような得も言えぬ情けない顔で、言った。

「変なところを見せちゃったね。うーん、いや、困ったね。……これから、少し話をしたいところだったんだけど、いいかな?」

僕にそれを断る権利なんて、ないような気がした。

それからすぐ、僕はさっきまで自分が眠っていたソファーに座らせられた。

グラステーブルを挟んだ対面に、一二三さんのお母さんが座る。

長い黒髪に、粛々とした動き。

キレのある表情に、賢そうな物腰。

なるほど、一二三さんのお母さん以外にはありえない人だと思った。

「アナタ、どこまで一二三のことを知っているの?」

と、お茶を入れてくれると言って場を離れたおじさんを待たず、お母さんが訊ねてきた。

その瞳は黒く、一二三さんと同じように僕を魅了し、圧倒する。

けれどそれは、僕と言う存在を圧迫して震い上がらせるものではなく、包容し、飲み込み、凌駕するものだった。

言うなれば、大海に押し飲まれる気分だった。