刹那、

「真輝っ!!」

お母さんの手が振り上げられたのと同時に、お父さんが叫んだ。

豪速で振り下ろされたお母さんの手が――ぴたりと、一二三さんの頬を張る直前で、見事に止まる。

一瞬遅れて、薙ぎ払われた空間に風がそよぎ、一二三さんの髪を揺らした。

向こうではばたばたと、カーテンがはためいた。

僕と、一二三さんのお父さんが、ごくりと喉を鳴らす。

「っ、っ、わからず屋――!」

そしてお母さんに頬をぶたれるところだった一二三さんの目にはいつのまにか、氷が溶け出したような涙がひとしずく、溜まっていた。

お母さんの手を渾身の力で振りほどくと、そのまま勢いよくリビングを飛び出してしまう。

ダンダンダン、と、たぶん階段を登っていく音が、大きく響いた。

あっという間に始まりあっという間に終わった修羅場に、僕はただ、この家族の部外者として遭遇してしまい、この上なく気まずかった。

「悪かったね」

と、内心を察してくれた一二三さんのお父さんが、肩を叩いてくる。