「こら一二三、手を離しなさい」

と、どうやら一二三さんの父親らしいおじさんが止めに――

「さ、わ、る、な……っ!」

入ろうとしたが、空腹状態の虎が憑依したような一二三さんの眼光は、あっさりと彼の動きを制止させてしまった。

おじさんが、僕と一二三さんを前に、いったいどうすべきかとおろおろし始める。

そうこうしている間に、僕の襟は徐々に徐々に締まっていくのだから、どうしようもない。

抵抗はおろか、細くなっていく気道でどうにか息を続けるのだけで、精一杯だった。

「母上も、お前も、なんていう体たらく……!」

見上げてくる一二三さんの目の、すさまじい殺傷力に、恐怖を抱かずにはいられない。

一二三さんの目を見ているわけではないのに、恐怖で見られるわけがないのに、彼女から放たれる眼力は、槍のように僕という存在を穿鑿する。

逃げることのできない、存在感。

今このまま、ひょっとしたら空いているもう一方の手が鋭く振るわれ、僕の首は一発ではね飛ばされてしまうのではないかと、本気で考えた。

「やめなさい一二三っ!!」

と、その時、彼女と口論していた声の主が、リビングにやって来た。