「前々から言っているはずよ! 礼と節を保って生きていくことが大切だって! アナタ、それをわかっているの!?」

「礼節如何を母上に問われたくはない! それに母上のは礼節ではなく、ただの逃避だ!」

「母上と呼んではいけないと言ったはずよね!? いいこと? 私は『母上』じゃなくて『お母さん』なの! ここは東城の家じゃない、風間家! いい加減理解しなさい!」

「っ、母上の、面汚し!!」

がしゃん、というなにかが割れる音がして、時を孕んだ足音がリビングへ突入して来た。

足音の主は、学校での冷静さが陽炎のように霧散してしまった、一二三さん。

「一二三」

おじさんが悲哀の眼差しで見やるも、一二三さんはそんなのお構いなしに一番、目を覚ました僕へ歩み寄った。

その手が、

「このっ……」

「わっ」

少女としては信じられないほどの握力で僕の襟を掴んだ。

一瞬のうちに、クレーンで吊り上げられたみたく、体が宙に。

足が、まさかまさか、床から離れていた。

毛布が、はらりと床に落ちる。