† 第九節



生きているものなら、自分だけの感覚で独占したい領域っていうものがあるだろうし、生きているものならば、心だろうと体だろうと触れてほしくはない禁断の場所があると思う。

よくいうのは、逆鱗とか、そういうところ。

僕の場合それは三つ目を宿しているひたいで、たとえ氷のうであろうとも、自分の認可したもの以外のなにかが触れているのは、我慢がならない。

だから、

「っ!」

「おっとびっくりしたーっ」

突然、そのひたいに冷たい感触がひたりと乗っかりでもしたら、それこそ僕は背中に熱湯を注ぎ込まれたような不快感を味わう。

そんな、穏やかじゃない目覚めを迎えた僕の正面に、

「いやぁ、起きたんだね、こんにちは」

「こ……こんにちは」

見知らないおじさんが、いた。

見回してみれば、今いる部屋も、見知らない部屋だ。

見たことのないソファー、見たことのないテーブル、見たことのないテレビ、見たことのないキッチン、見たことのないリビング、見たことのない、空間。

僕は毛布をかけられ、長ソファーに横たわらせられていた。