「あっ!」

その光芒は、狼には命中していない。

一二三さんが炎を凝縮し、放つ直前に、ぎりぎりの鍔迫り合いを制した狼は、大きく跳躍していた。

僕の動体視力でも、それはまさしくまばたきのうちに行われた、四半秒の攻防。

すでに逃走に入ったらしい狼の姿は、高く宙にあった。

撃ち出された炎の破壊光線はまるでこの世のすべてを断罪する力を有すかのように木々を数本、凄絶な火力で薙ぎ倒し、果ては、彼方にあったプレハブ倉庫に穴を穿った。

だけど、一二三さんは舌打ちをする。

標的を逃したのだから当然だろうけど、今、それだけの損壊を与える力を生あるものへ向けて、後悔の一片も見せない彼女を、恐ろしく感じた。

現状自ら引き起こした被害を露も気にした様子がない一二三さんが、再び僕へ目を向ける。

その眼光は、いっそ、僕をも炎の餌食にしかねないほど、強烈だった。

「六条賢一、『目』は!」

「あ、あ、はいっ」

叱咤されて、彼女へ視線を注いでしまったのが、ミスだった。