まるで球状のテリトリーを持っているように、僕は視野を広げる。
それなのに、見つからない。

でも、

「昨日、訊きそびれたことがある」

一二三さんは、まさか、声の発生源を感知しているんだろうか。

まったく動じた様子がない。

「最近この付近で殺人が多発している。いいえ、躾のなってない、清々しく見せてその実、卑しく汚ならしい食事と言ったほうがいい。お前、……それについてなにか知っている?」

殺人……

その、あんまりにも物騒な単語に、つい眉をしかめる。

香澄姉さんが聞いたら絶対に、僕以上の反応を取るだろう。

それだけ僕の生活からは、殺人という単語は縁遠いものだった。

もっとも……僕がどういう形であれ、一二三さんを昨日殺したことが事実なら、いや事実なのだから、その言葉はひどく僕に接近してきたことになるのだけど。