強大なものを前に、弱者は居すくまる。

僕もそうだ。

だけど、居すくまっているにしても、自分の存在を否定して、この場から霧散してしまいたいという欲望だけは必死に抑え込んだ。

僕は、君から答えをまだ聞いてないぞ、風間一二三。

「――ふ」

と、やがて、微笑みらしきものを一瞬だけ浮かべた彼女は、目を閉じた。

同時に、首筋と頬から爪が抜ける。

抜けた時の感触が明確に伝わってきたのだから、それはそれは深く食い込んでいたのだろう。

血か、体液か、首はいやに生々しいぬるさで、ぬめっていた。

そして一二三さんによる言葉の展開は、唐突だった。

「よし。教えよう。お前は昨日、一二三を殺した。お前のひたいにある第三の目から放たれた呪力が、一瞬で一二三を死に至らしめた」

彼女は二度も、自らの生が絶たれたことを、軽々口にする。

僕はこの時、今この場での会話に、驚くという行為が一番無駄であることを悟った。