せめてもの救いは、幹が僕と一二三さんとの間に入って、緩衝剤になってくれていることだ。

なんとなくでしかないけど、無意識に人と人の仲を取り持つことが得意な幹は、器用な人生を遅れそうだなと思う。

ふと、そのすばらしい緩衝剤の目が、僕へ向いた。

「賢一、顔色が優れないね。どうかした?」

香澄姉さんの言葉と違って、幹は一直線にものを言ってくれる。

それはもう、たまには情けと遠慮を見せてくれというぐらいに。

今なんか、すぐそばに一二三さんがいるのに。

――姉さんに言えなかったことを、どうしてことの当事者がいる前で言えるだろうか。

「いや、別になんとも」

「うそつき」

「……」

だからついた虚言なのに、ものの一秒も間を空けずに、一二三さんからぐさりと刺されてしまった。

昨日、間違いなく教室で感じた『領域』が、幹を通り抜けて僕へ侵攻してくる。