異質な空気だと思った。

死んだ、殺したと思った人間が生きていて、普通に僕の横にいる。

とても、とても異質な空気だと思った。

まるで、どう見たって密封の中に、突然なにかが現れるマジックのような。

いや、その空気は僕がひとりで感じているものだ。

幹と一二三さんはなんてことない、普通の会話をしている。別に変なことじゃない。

そう、これは僕がひとりで勝手に感じていることだ。

一二三さんは――自分のことを『私』でも『あたし』でもなくて、『一二三』と呼ぶ。

気高い雰囲気を醸し出す彼女には少し不釣り合いな一人称だったけど、それにも、こうして並んで歩いて十分くらいで慣れた。

そう、別になんの問題もないだけだ。

「六条賢一」

「あ、な、なに?」

「……別に」

「…………そう」

こうやって時々僕を見つめて――いや、睨み付けては、絶対になにかあるはずなのに、だんまりを決め込む以外は、別に。