僕は、

「……別に……なにも……ないよ……別に……」

言おうか、言うまいか、言おうか、言うまいか、何度も自問自答して、結局言わなかった。

明らかに、なにかあったんだと睨んでいる姉さんの目は、一直線だ。

はたから見たら、儚そうな雰囲気の姉さんは、だけど時々、信じられない威圧感を放つから、驚く。

ちょうど今のように、まるで眼力で僕を麻痺させようとしている目がそれだ。

「ないの、なにも?」

「うん。ないよ。なにも」

「……そう」

と姉さんは頷いて、トーストをかじった。僕への眼力も、それでやむ。

自然に、力の入っていた肩の線も緩む。

(よかった)

実は実は、このお世話上手で頼れる姉さんが、僕は少し苦手なのだった。

結局、当然とも言うべきか、姉さんに昨日見た光景のことを、話すことはなかった。

自分の中では、身勝手なほど固く、風間一二三さんを殺したという意識があるのに――


それを、他人にまで言う気にはなれなかった。

いや、というよりもむしろ、他人には知られたくなかった。