僕は、姉と二人暮らしだ。

正確には、二人暮らしにさせられた――というのかもしれない。

実を言うと、さっき呼びに来た姉は、実姉じゃない。そもそも僕は一人っ子だからだ。

けど、親戚がどうの一族がどうの仕来たりがどうのとかで、彼女は僕の姉なんだ。直接的には血の繋がらない、姉。不思議な気分だ。

そして両親は、これまた親戚がどうの一族がどうの仕来たりがどうのとかで、実家のある田舎へ帰っている。

いつ戻ってくるかは、見通しがつかないらしい。

そのあいだ僕の面倒を見る役目として、姉さんがやって来たんだ。

「それって、『姉』って呼ばないんじゃないの?」

出立した両親、来訪した姉さんにそう訊ねたら、すばらしく断言された。

「六条賢一の姉です、鈴原香澄は。間違いなく」

と、やっぱり倒置法で。

まったくどういう意味でそうなるのかわからないけど、僕は香澄姉さんと暮らし始めて一ヶ月、彼女を『姉さん』と呼ぶことを余儀なくされた。

ずっと『姉』なんて存在はいなかったし、妙な感じだった。幹も、同じく戸惑ったと思う。