帰ったら、咎められるのは必至だろう。

そこに、殺人などというどうしょうもないものは加えたくない。

――と、

「覗き見なんて、いい度胸」

出入り口付近に別の『気配』を感じ、振り返らずに、言う。

「お前が本物の監視? それともコイツの親玉? だとしたら、そこから少しでも動いた瞬間に、殺す」

感じるのは、人間に近い輪郭をした――しかし、人外の気配。

外形はむしろ……威嚇的に構えた厳つく大きな猿のようだ。

足元に転がっている男より強く、野性的。

「……どちらでも、ない」

「……そう」

ヤツは恐らく――いや、恐らく無論以上に、こちらを見ている。

だから振り返れない。

あちらが動けば仕掛ける準備はできているが、こちらが動いた場合、あちらも仕掛ける準備くらいできているのだろう。

教室の入り口からここまでの距離は、十メートルとない。

あくまでも接近戦なら、こちらに分がある。

一瞬よりも短い時間で、その喉笛へ爪を立てられると思う。