そこでようやく真輝さんは、僕の背後にいた彼へ苦笑する。

「デュオ、その名前は禁止よ。仁に向かってアナタ、〝千約〟って呼べる? 呼べないでしょう。それと同じよ。私に東城の名は必要ないわ」

「それじゃあ、風間さんって呼んだほうがいいかな?」

「そうね。そっちのほうがいいわ。……だけど、奥さん、とか呼ぶのはよしてちょうだい。純に聞かれたら恥ずかしくて死ねるわ」

「そう。じゃあそれはよしておくよ。よしておくついでに、君ももう少し事後処理を考えてもらえると助かるかな。校舎にそんな大穴開けて……だれが修復すると思ってるんだい?」

アナタでしょ、と悪びれた様子もない真輝さんにデュオと言われた彼は肩をすくめた。僕と同い年ぐらい、同じくらいの体躯なのに、ずいぶん余裕がある気がした。

ああ、そうか――と、すぐに得心する。

彼は、この世界に踏み込んで、僕よりもずっと長いんだ。

それはもう、見た目によらず。

そんなことを思った。