それは、階段をひとつ登ったような、ひどく呆気ない労力。

着地と言うよりも、ただコンクリートを踏んだだけのような身のこなし。

これで、人をひとり片手に持っているっていうんだから……やっぱり息を呑むしかなかった。

その僕の背後で、

「また、派手にやってくれるね、東城の〝鬼姫〟は」

「!?」

聞き慣れない、いやまったく聞いたことのない声がした。

驚いて振り向くと、いつからそこにいたんだろうか、僕と同年代くらいの男の子が、影のように立っていた。

すごく特徴のない、絵に描いたような『気をつけ』の姿勢。

自己主張のない、けれど一度気付いてしまえば二度と見過ごすことのできない存在感。

やや逆立つほどの黒髪に、黒い瞳。

日本人らしいのに外国人のような印象を受けるのは、マネキンのようにバランスの取れた白い顔立ちのせいか、それとも、彼の着ている修道衣のせいなのかはわからない。

服の埃を払った真輝さんは、すぐ横に倒れたままの幹を、片手で簡単に担いだ。

彼女のさらに三回りあろうかという狼人間が、細い肩の上で弓なりになる。

右と左で、一二三さんと幹が荷物になった。