† 第十九節



「めようよ! ――え!?」

僕はひたいのそれごと、目を丸くした。

炎は、そう、やんでいたんだ。まったくの突然に。

顕現した火炎の鬼は夢幻のように消失し、あらゆる負荷が去り、夜の静寂がさっきまでのなにもかもを無視して、当然のように広がっていた。

銀に輝く星のまばたきさえ聞こえてきそうな、静けさ。

その中央で、

「おいたが過ぎるわね、一二三」

長い黒髪をたよたわせ、シックなスカートを風に遊ばせつつも、あまりに屹然、あまりに堂々と立つ女性が、ひとり。

その右腕で一二三さんの首を掴んでいた。

まさしく掌握、そして制圧だった。

本当に突然のことなのに、そこにそうしてあって、この光景が当たり前のように見える、絶対風景だった。

姉さんともども、息を呑む。

彼女は、そう、

「真輝、さん……」

一二三さんの、お母さんだった。