どこかで、ガラスの砕けるような音が聞こえた――気がする。

その時にはもう、僕を束縛していた鎖は、砂のように散ってしまっていた。

「ちっ」

と、一二三さんの、あからさまな舌打ちが。

そのひたいに煌めく、湖に映ったような青い瞳。

「一二三さん」

それに僕は、

「僕は逃げない。僕は僕を見つめるんだ」

打ち勝たなくてはいけない。

この境界へ、自分で踏み込んだけじめとして。

香澄姉さんは言った。

六条の六つの視線。

難しい言葉だったから綺麗に暗唱はできないけれど、対象者を操る力が、あるはずだ。

できるかなんてわからない。だけど、今だけは、わからないという言葉に溺れてしまっていては、幹を助けることすらできない。

全身全霊を込めて、ひたいに意識を集中させる。

僕の意思を、考えを、一二三さんへ叩き込めばいい。はずだ。言葉に乗せて強調する。

「一二三さん、もうこんなことはよそう」

「……」

「こんなことしても、なんにもならないよ」

――なぜ?

と、直後返ってくる、声なき声。