「六条賢一、貴様は忘れている。コイツは貴様の幼馴染みである以前に、人狼。話したはず。コイツは最近連日で人を食らっている。それは、許される?」

「……」

「大竹幹がすがりたがっている人間という存在にとって、つまりそれは、駆除されるべき害獣。人間ならば、害獣は処分したい。つまり人間の望みは、大竹の望み。ならばコイツは、死にたがっている。死んでも文句はないはず。違う? どう思う? 答えて」

そして右掌は、残忍なまでに直線、幹へ向けられている。

幹はまったく動かない。今の一撃が相当効いているのか……気を失ってしまったのかもしれない。

一二三さんの眼は、あまりにも青い。濃紺の邪眼。人を誘惑せしめん、怪しい光。

――綺麗だ、綺麗だ。美しい。彼女こそ褒め称えられるべき一個の、そして至高の存在であり、僕はそれに魅了される哀れな者でしかなく。

ああそれは、歴史上語られる、死を招く宝石のように艶やかで――

「賢一っ」

「!」

袖を強く引っ張られて、僕は我に返った。

いや、自失していたことに、気が付いた。