「幹!」

思わず駆け寄ろうとした時、左腕がついてこなかった。

振り返る。

香澄姉さんが、首を横に振っていた。

「なんにもならない、行っても。賢一じゃ」

「でも……!」

「否めない、力不足は!」

「っ」

僕は、舌打ちするしかなかった。

踏み込んだ世界。自分から、自分を知るために侵した世界。

それなのに僕はその世界で、扉の向こうで、境界のこちら側で、なにをすることもできない。

ただ、姉さんの作ってくれた揺り籠の中で、指をくわえているしかないのか。

幼馴染みが、狩猟されているにもかかわらず?

「できるの、今? 駆け寄ったら、なにか?」

「そうじゃ、ないけど……見てるだけじゃ、だって……!」

姉さんにそういう力があるかどうかはわからないけど、心の先を読まれて歯噛みする。

歯噛みする。歯噛みする。

見れば、手足の先だけクレーターからはみ出ている幹の手前に、一二三さんが着地していた。

その眼が三つとも、僕を見て笑っている。