幹の獣の口が、少し吊り上がった。笑ったんだ。

「賢一も、一二三さんがもともとは東城っていう苗字なのは知ってるよね。東城家……少し前まですごい範囲の敷地を誇ってたらしいんだけどね、今は没落してるんだ。原因は、一人娘の逃亡にあるとか」

「一人娘……あ」

その時、僕の脳裏に真輝さんの言葉が蘇った。

――私が東城の名を捨てた――

つまりそれは、東城家が没落したっていう事件の原因……

だけど納得がいかない。

「それと幹と、なんの関係があるんだよ!」

「さあ、そんなのボクには図りかねるね。推理にも及ばない憶測として言うなら――今、その東城家の敷地を管理しているのは教会なんだ。だから、教会の心証をよくしておけば、屋敷を取り戻せるんじゃないかっていう考えじゃないのかな?

――もっとも……そんな浅はかな考えを、一二三さんが持っているかどうか」

「……一二三、さん……?」

見やった先、炎を影のように随伴させる美少女は――

「く、くふふ……あはははは……!」

コスモスの開花シーンを早送りで見たように、笑った。破顔だった。