「!? まさか……!!」

「そう、そのまさか!!」

刹那、ボクへ彼女の眼力が叩き込まれる。

瞳の魔力――六条の力――そのひとつ――支配力が、ボクを押し包む。

魅了の眼差し。他者を操る強制の暗示が、体を硬直させる。

あまりにも大きく強い、動くなという命令のもとに、震えることすら、許されない。

「ふっ」

と、鼻だけで笑って、一二三さんがボクの手を振りほどく。

悠長にボクへ背中を向け、動きやすいうつ伏せになってから、這いずり出た。

ボクは、それをただ歯軋りしながら見ているしかない。

立ち上がった一二三さんは、首筋から手を入れ、髪を一度掻き揚げた。

肩上で切り揃えられている髪が、さらりと揺れる。

すっかりと暗くなっているのに、その髪はあまりにも映えていた。

闇の中にあってなお煌めく、羨ましいほどの漆黒。

ボクのまとう、硬い毛皮の黒とは、わけが違う。

「さて」

切れ長の黒い双眸が、そしてひたいの青い瞳が、こちらを見る。

頬から垂れる血で明々と染まった唇が、歪んだ。

「なら、前言通り、これで終わりにしましょうか」