あと一手――追撃を仕掛ければ、彼女を貫ける。

その肉に爪を立て、首筋に牙を刺し、血祭りにあげられる。

あと一手で、賢一の世界を、ボクの世界を、守れる。

邪魔者を排除できる!!

「さあっ!」

そして、

「これでぇ!」

彼女を、

「ボクの勝ちだっ!!」

捕まえた。首根っこを片手で掌握し、叩き下ろす。

「っきゃぅ!」

瞬間響いた、女の子でしかない悲鳴。

ボクの喉がどうしようもないくらい醜悪に渇いた。いけないいけないと、かぶりを振る。

目的を間違えちゃいけないんだから。

背中から伝わった衝撃は、全身を駆け巡る。

ボクの手の内で、一二三さんは数度、痙攣した。

血を一度吐き出し、彼女の頬を赤いまだらに染めた。

そうとも、風間一二三は今、絶体絶命の状況にある。

勝利を、確信した。

「残念だね、一二三さん。隠し球はここぞって時まで取っとくものだからさ」

なのに、

「っく、ふふ、は……」

彼女は、笑う。

常の無表情は嘘のように、優しい笑みを浮かべた。

いや、嘲笑か……