† 第十七節



「! どうして!? はっ!」

「よそ見!」

「くっ!」

そう、まさしくよそ見だった。

ほんの一瞬気を持っていかれた隙に、一二三さんが突進してくる。

その動きはさながら、一矢の風。下手をすれば、この体に穴を穿ってくる、危険な鏃。

指先までしゃんと伸ばされた刺突が、豪速で迫る。

ボクはとっさに、腕を盾にした。

肉が、抉られる。

「がっ……!」

ともすれば直後、真下から彼女の爪先が持ち上がっていた。

顎を蹴りあげられ、からだが中へすっ飛ばされる。

ほんの一瞬でこの二連撃を決められる。これが人を超越した戦いだ。

宙で身を捻り、体勢を建て直す。

周囲を見渡すと、そこにはすでに、乳白色の霧は浮いていなかった。

ちらちらと星を瞬かせる暗幕が、空を覆っている景色――つまり、結界が解かれた。

(さっきの鈴の音……)

まさか、香澄さんがボクを裏切ったんだろうか。

なぜ、どうして。