黙っていると、一気に彼女は続けた。

「丁、其は境界を見極めん。戊、其は不可視を捉えん。己、其は即死を与えん」

「……」

「これらの眼力を束ねたる者、冠するは六条なり」

「…………」

「これが六条。代々続く力なの、賢一の眼力は」

ス、とそして、横にずれる。

あれほど圧迫してきていた不可視の鎖が解かれる。

道を、譲ってくれるっていうんだろうか。

こんなにも、あっさりと。

いきなり過ぎて、なぜか、恐ろしい。

「私は問いたい、賢一に」

と、いぶかしむ僕に、彼女は追及してきた。

そんなにありありと眉間にしわが寄せられているのを、初めて見る。

「私は思ってる、踏み込んでほしくないって。幹ちゃんも思ってる、踏み込んでほしくないって。必ずしも罪にはならないの、無知は。流されないで、一時の感情に。よく考えて、これからのことを。本当に、知りたい? この階段の先にある、世界を?」