† 第十五節



「らああああああっ!!」

頭上から、それは落下してくる。

握り固められた二つの黒い拳。

落下のエネルギーと、その剛腕に誇れる筋力とが、拳の勢いを神速にまで高める。

獣の鉄槌は、コンクリートにクレーターを穿った。

蜘蛛の巣状にひびが入り、つぶてが跳ね、周囲のフェンスが振動にたわむ。

その周囲では、乳白色の霧がふわふわと浮かんでいた。

「逃がさないよ!」

指先まで揃えられた手刀が、槍のように繰り出されてくる。

右肩を引いて体を横向きにするが、その速度はあまりある。

傾けた首筋を風圧が割いていく。血の玉が一滴、背後へと抜けた。

「っ!」

肩を引いた勢いをそのままに、後ろ向きに円を描いてステップを踏む。

ぐるりと回転して、右の裏拳を叩き込んだ。

はずだったが、あれほど深く踏み込んでいた野獣の体は、すでにこちらの射程圏内から逃れていた。

威力を高めるために踏みしめた右の足裏が、コンクリートへ無駄な日々を入れるばかり。