案の定彼女は言った。

「だって、この中は賢一の『目』も届かない。この中なら、ボクは本気を出せる。一二三さんを、始末できるよ」

瞬間、その体が肥大化する。

一回り、いや二回り三回り……どころの話ではない。

二倍くらいの大きさへ、まさしく一瞬。

びりり、びりりと彼女の衣類が紙吹雪のように弾け飛ぶさまに、少なからず恐れを抱かせられる。

いや、恐れではない。

純粋な驚嘆だ。

伸びた鼻面に、耳まで避けた大口。並ぶのは、エナメル質で唾液の滴る鋭い牙。体中を覆っている黒い毛皮は、いっそ、すべてが畳針のようにさえ見えた。長く白く光る爪は、サバイバルナイフが扇状に並んだようだ。

昨日の姿になった大竹は、いかつい肩を丸め、前傾姿勢の獣が、無理やりに苦笑を捻り出す。

「それにボクの姿を、賢一にさらさなくてもすむしね」

一人称の変わった人狼・大竹幹が、突進してくる。

即座に、まずは横へとんだ。

鬼の動体視力をもってして、それはようやくの反応だ。