空の菫色が、うすら白くなっていた。

くすんだ筋雲のようなもので、周囲が球状に包まれている。

乳白色の彼方は、本来すでに夜を迎えているはずだろう。

巨大な化け物の消化液に包まれたような空間が、あの清浄な音色から生み出された結界とは、なんとも皮肉めいていた。

そう、まるで、人は見掛けによらないのと同じ。

大竹が、

「煤祓いって知ってるかな、一二三さん」

「……煤? 掃除?」

「わざとらしい、的はずれな答えをありがとう。まあ本来は、汚れを落とすことなんだけど。それだけじゃない、煤祓いの血筋っていうのが世の中にはあるんだよ。つまり、怪異を煤と見立てる力かな」

手の鈴を、ポケットへしまう。

「ススバライ……転じて今や、鈴原。あたしの協力者はね、こういう結界を張ることができるの。もちろん煤祓いの力はそれだけじゃないけど……この鈴自体の効力は、この劣等な結界だけ。でもそれで充分」

「なにに、充分と?」

彼女はついと視線を周囲に巡らせた。

六条の眼球が消えている。

結界とは、内と外を分けるもの。

隠したいものを、内側へ秘するもの。

問いはしたものの、なるほど、そういうことか。