「なんでこんなことをしたの?」

《……》

「っ――、なんでこんな……っ、答えてよ、賢一!」

《……》

「なんで、なにも言わないの。…………そう、か。一二三さんか。――一二三さんだね!? 彼女に指図されて、こんな話を聞いてしまった! 賢一、そうでしょ!!」

彼女の言葉は、ほぼ怒声だった。

禁忌へ踏み込んだ者を懲罰するような、頭ごなしの叱責。

……八つ当たりだろう。

しかしだ。

《その推理はハズレだよ、幹。これは僕の意思だ。僕が自分から踏み込んだ》

残念ながら、六条の考えは大竹のものと、そぐわないらしい。

《幹は僕になにも教えてくれようとしなかったけど、今の話を聞いて少しわかったことがあるんだ。僕のほしい知識は、君がずっと隠してきた世界にこそある。幹、僕はもう逃げないよ。今から『そっち』へ行く》

それはつまり、人外である自分を認めたということ、か。

なかなか待ち合わせ場所に来なかったのは、恐らく大竹の妨害を受けてだろうが……

こうして一二三と大竹の話を盗み聞いてしまったことで覚悟ができたか。

怪我の功名といえた。