「それは、六条賢一を当てはめた言葉? それとも、お前自身?」

「両方かなあ。あたしの世界はさ、あたしがこの世界に生まれて三年目から、賢一と一緒に回り始めたんだ。それまでのあたしは、普通であるがために苦しかったの。

信じられないね。爪も牙もないだけで、まるでナメクジのように塩をかけられる。

そしてあたしの世界が劇的に変化したのは、あたしが生まれて六年目。賢一と出逢って三年目。

覚醒の瞬間に湧き起こるあの感覚。一二三さんにもわかるでしょ。喉の乾きや、骨、腱、筋肉、神経の末端に至るまで震えていく、自分が焼き尽くされるような衝撃。焦点の定まらない蒙昧とした意識と、それでいて感じる胸の灼熱な痛み。そこから生じるあまりにも残忍な衝動。

いままで築き上げてきたなにもかもが、海辺で作った砂細工みたいにドロドロになっていく凌辱感。自分が塗り替えられていくのは純粋な恐怖だよ。

そればかりじゃない。爪牙が揃ったら揃ったで、今度は血なまぐさい話を延々と聞かされる。よりにもよって両親から」