アスファルト上で上靴が滑ることすらない。体が宙を突き抜けた。

背中で甲高い衝突音と痛み。フェンスが陥没し、尻がわずか、その窪みに乗る。

頬や腕、足に、半端にちぎれた針金が刺さった。

すぐさま起き上がろうとしたが、

「遅いよ」

「っ、ぐ」

アスファルトを踏み砕き、肉薄した大竹幹が、腹部を踏みつけてきた。

背中が、ちぎれて尖ったフェンスに引っ掻かれる。

驚きと不服めいた表情を、大竹幹は浮かべていた。

「こんなの大昔の言葉だけど……北に門あり南に塔あり、西に蔵なら東に城なり――って、知ってるよね、一二三さんなら。この地域に伝わる人外魔境の示し歌。その東の血の後継を、あたしなんかが足蹴にしてるんだ。驚く以外どうしろっていうんだろうね」

「……っ」

侮辱されても、容易には動けない。

彼女はただ足を乗せているように見せてその実、完全にこちらの動きを制している。

押し返そうとすれば、それ以上の力で腹を抉られるだろう。

そう、圧力でもって骨を砕き、内蔵を破裂させられるのだ。

彼女のどこが、だから、人間だというのか。