両腕を目一杯に振り上げた人影が落下してくるのを、右へ避ける、

薙ぎ下ろされた彼女の両手が一閃、フェンスを切り裂く。逆二等辺三角形に引き裂かれたフェンスが、やかましい擦過音をあげてグラウンド側へと崩れていった。

落下速度など、いじれるわけがない。にもかかわらず、彼女の着地は凄まじい。

着地の瞬間、屋上のコンクリートに蜘蛛の巣状のひびが入っていた。

落ちたフェンスが地上に衝突したのだろう。ガシャガシャという音が、下から響き上がってくる。

「ただの人間が、あんな一撃を放てはしない!」

「だから!」

衝撃を緩和するためしゃがみ込んでいた彼女が、重心をこちら側へ。

「賢一にはこんな思い、させない!」

そのあとへ続いて、大きな踏み込みと同時に、左手が居合いのように線を描く。

鋭い手刀が、わずかに体をそらした眼前を抜けていく。前髪が一センチ、持ってゆかれた。