「みんながみんな、君みたいだと思わないでよ? あたしはできるなら、こんな力ほしくなかったよ。凶悪な飢えに苦しむなんて経験も、したくない。飢えを満たした時、どうしようもない快感を得る自分は、もっと嫌いだよ。一二三さんに言っても、わからないよね?」

「わかりたくもない」

なぜならそれは、一二三の存在否定だから。

「聞いたあたしが悪かった。わかるわけがないね、一二三さんにはさ。でもさ」

彼女が、前傾姿勢を取る。両腕が肩から、飾りのようにぶら下がって見えた。

「賢一は、ただの人間の境界にいてもらいたいんだよ。これ以上、一二三さん、君には関わらせない。賢一はあたしが守るよ」

そしてその瞳が黒から、金色へ変わる。

まるで魔力を帯びたように。

それはまさしく、宣戦布告だった。

「完全な変身はやめておくよ。このあと賢一と一緒に帰るつもりだし、人前で服が引き裂けるなんて恥ずかしいからね」

「羞恥心とでも? ……人狼が、人間めいたことを」

「あたしは」

刹那、その姿が消える。

いや――

「人間だ!」

「!」

上へ、飛んでいた。